4,30m深地温分布

(1)目的
前章では、1mより浅い地表付近の地温の様子や熱流などについて研究してきた。
 その結果、日射で地表に吸収された熱は地下に向かってゆっくり伝導していくことが確認され、日変化が確認された。1m深においては、地温の日変化は確認されなかったが、地表からの熱の影響を受けている可能性は大きいことが予想された。
 ここでは、さらに地下深部について研究していく。
 地表からの熱流は、どのくらいの深さまで影響しているのか、反対に地球内部からの熱流の影響は、どのくらいの深さから生じるのか明らかにしていく。
(2)仮説の設定
前章で、地表付近の熱流量について調べた結果、熱流は観測されたものの、大変小さい値であった。おそらく、あの熱流量が夏季の間など長期的に働いたとしても、地温にそれほど大きな影響を与えるものではないと考えられる。現に、1m深で時間的に大きな地温変化は見られなかった。
 このことから、おそらく地表面温度の地温に及ぼす影響は、数m〜数10m程度と考えられる。
(3)方法
1m深調査で、たかが1mと思って観測孔を設置したが、とても大変な作業であった。 さらに深く、数m、数10mの調査孔を自分たちで掘り進むことは無理であることが分かった。そこで、仕方なく既設のボーリング孔を探し、利用することにした。
 ボーリング孔の条件として、なるべく地下水の影響の無いものを探すことにした。地下水がある場合、地下水の流れを把握しないと、どの深さの地温を測定しているのかはっきりしないと考えられるためである。
 幸い、吉城郡宮川村打保地区において、国道360号線のトンネル予定地点調査ボーリング孔(垂直32m)があることを知り、これを利用して地温を測定することにした。
 しかし、このボーリング孔は、道路から宮川を挟んだ対岸にあり、しかも川を渡ってからおよそ40度の急傾斜を50mほど登った位置に設置されていた。
 そこで、急遽、川を渡るためボートとロープを用意した。
 さらにボーリング孔の深さが32mもあることから、50mの深さまで地温測定の可能な、エイワ電子(株)製の精密温度計を用いた。
(4)検証
測定の結果を表4−1に、それをグラフ化したものを図4−1に示す。
 記録は、深さ2mごとにおこなった。この日の気温は31.3℃であった。
 1m深地温に影響の大きかった地下水は、ボーリング孔の最下部でわずかにみられただけであった。
 地表から地温は急激に低下し、4m深でおよそ14℃になった。
 6m以深では、地温の変化がほとんど見られなくなり、およそ12〜13℃のまま坑底32mの深さまで続いた。
 この結果から、地表からの熱流は、約6mの深さまで影響を及ぼしているが、約6m以深では、ほとんど影響を与えないことがわかる。よって仮説はほぼ検証されたと考えられる。
(5)まとめ
観測の結果、地表で得られる熱は、地下に伝導して地温上昇させるが、その深さは6m程度であることがわかった。
 今回の観測場所は、これまでの盆地内とは異なり、山の傾斜地ということと、たった1カ所の結果ということで、これまで測定してきた1m深地温の結果と単純に結びつけて考察することはできない。しかしこの観測より、少なくとも地下数mまでは地表の熱の影響を大きく受けているが、地下数m以下深では、地表の影響がほとんどなく、地温は安定していることがわかった。
 そこで次章では、地球内部からの熱流の影響が、どのくらいの深さから生じるのかを明らかにしていく。


表4−1 国道360号線トンネル 調査ボーリング坑内地温 宮川打保地内

深さ(m) 坑内地温
0 31.3
2 16.5
4 14
6 12.9
8 12.6
10 12.6
12 12.6
14 12.7
16 12.8
18 12.8
20 12.9
22 12.9
24 12.85
26 12.8
28 12.8
30 12.6
32 12.4
外気温31.3℃


図4−1

ボートで対岸に渡る


調査地点全景(左)とトンネル調査ボーリング孔(右)