5,深部地温分布 @

5−1 ボーリングデータ
(1)目的
前章では、32mの深さまでの地温の特徴を探った。その結果、約6mより深くでは、地温は地表の影響をほとんど受けないことがわかった。
 この章では、さらに地下深部の地温や熱流の様子を調べることが目的である。  
 さらに深部に行けば、地殻熱流量の影響が大きくなり、やがて地温も上昇してくるはずである。地下深部の地温変化を探るのがここでの目的である。
 さらに地殻熱流量が求められないか研究する。
(2)仮説の設定
前章で、トンネル調査ボーリング孔において地温を測定したところ、地温は地下数メートルでおよそ12℃になり、約30mまでほとんど変化なく地表からの熱流の影響が無くなることがわかった。
 さらに深い部分の地温は、地下深部からの地殻熱流量によると考えられる。
 よって、地温はさらに深部でもこのままの温度を維持するのではなく、すぐに上昇して行くと考えられる。
(3)方法
地下深部の地温を直接探る手段として、温泉ボーリングデータを用いる。
 古川盆地には、いわゆる温かい水がわき出すような温泉はない。しかし平成になってから2つの新しい温泉が掘削され、オープンした。
 1つは、古川町黒内地内に掘削された「すぱーふる温泉」で、もう一つは、国府町宇津江地内に掘削された「しぶきの湯」である。
 前者は、掘削深度が1250mであり、後者は、1600mである。
 この2つの温泉ボーリングデータより、古川盆地の地下深部の地温について検証を行う。
(4)検証
○すぱーふる温泉データより
 すぱーふる温泉は、平成5年にオープンした温泉である。周囲の地質は、濃飛流紋岩、手取層群の礫岩、砂岩、泥岩よりなり、掘削深度は1250mである。
 すぱーふる温泉の孔底温度の値を表5−1−1に、そのグラフを図5−1−1に示す。 孔底温度とは、掘削の途中途中で孔底の温度を記録したものである。
 孔内温度を記録し始めた100mの深さで、地温は18℃であった。地温は、600m、1000m付近でやや低下する地点が見られたものの、深さに比例して上昇し、1200m付近では55℃以上に達した。
 地温の深さによる上昇率を地温勾配という。地学の教科書には、地殻の一般的な地温勾配は2〜3℃/100mであると記載されている。
 このグラフより地温勾配を求めると、およそ3.3℃/100mであり、やや平均値より高いことがわかる。
○しぶきの湯のデータより
 しぶきの湯は、平成12年にオープンした温泉である。周囲の地質は、濃飛流紋岩を主体とし、掘削深度は1600mである。 
しぶきの湯の孔内温度の値を表5−1−2に、そのグラフを図5−1−2に示す。
 しぶきの湯の場合、すぱーふる温泉よりも温度上昇の仕方が直線的であることがわかる。孔内温度を記録し始めた50mの深さで、地温は17℃であり、100mで18℃であった。地温勾配は2.3℃/100mであり、平均的な値であった。
 2つの温泉のデータより、地下50〜100mまでの浅所における地温は、およそ17〜18℃であることがわかった。100mより深くなると、地温はほぼ一定の割合で上昇し、地温勾配は2.3〜3.3℃/100mであることがわかった。
 両温泉の地温勾配から計算される地表温度は、すぱーふる温泉の場合約13℃、しぶきの湯の場合約16℃と想定される。
 前章の研究で、地表付近の温度は本来12℃程度であるが、地下数mまで地表面からの熱の影響が及んでいることがわかっている。
 よって、地温勾配から予想された地表面温度は、しぶきの湯ではやや高い値であるものの、両温泉データとも、これを裏付ける結果となっている。仮説で予想したように、地温は地下数10mから上昇し始め、その上昇率はすぱーふる温泉でやや高いものの平均的な地温勾配で上昇していくことがわかり、仮説は検証された。
(5)まとめ
前章の結果とあわせて考察すると、32m深で地温は約12℃であったことから、地下数10mの深さの地温は12〜18℃の範囲であり、数10mより深部では、ほぼ平均的な地温勾配で地温上昇していくことがわかった。
 12〜18℃の範囲というのは、ばらつきが大きいように思える。
 原因としては、地質の違いや地形、地下水などいくつかの要因が考えられるが、これだけのデータではよくわからない。今後の課題としたい。
 さて、地下深部の地温についてもう少し別の方法で探ってみる。

表5−1−1
古川町「すぱーふる」温泉ボーリング孔温度

深度 孔底温度
100 18
150 19.3
180 19.9
210 20.6
250 21.2
300 23.6
350 24.9
380 25
410 25.4
440 26.5
460 27.2
490 31.7
520 31.8
550 32.6
574 33
610 33.7
640 32.4
660 32.6
686 33.4
700 33.8
730 36
760 36.7
790 37.6
820 39.4
840 40.9
870 41.7
900 43.3
930 45.7
960 45
990 45.7
1020 42
1050 44.7
1080 45.7
1110 54
1140 50.5
1170 55.7
1200 51.7

表5−1−2
国府町「しぶきの湯」温泉ボーリング坑内温度

深さ 温度
50 17
100 18
150 19.5
200 21.2
250 23
300 23.5
350 24
400 25.3
450 27
500 28
550 29
600 30.2
650 31.5
700 34.5
750 35.3
800 36.5
850 36.5
900 38.3
950 39.2
1000 40.2
1050 41
1100 42.5
1150 42.5
1200 43.5
1250 44.5
1300 45
1350 48
1400 49
1450 50.5
1500 51.5
1550 53
1600 54.5

表5−2−1
野口トンネル坑内温度と壁面温度

距離(m) 坑内気温 壁 右 壁 左 壁面平均
100 33.2 25 22.5 29.1
200 30.2 20 15 25.1
300 28.3 19 14.5 23.65
400 27.1 18 13.5 22.55
500 26.3 17.5 13.5 21.9
600 26.6 17.5 13 22.05
700 27.5 17 13.5 22.25
800 28.4 18.5 14.5 23.45
900 29.5 19.5 16 24.5

表5−2−2
猪臥山トンネル坑内気温と壁面温度

距離(m) 平均値 坑内温度
0 19 17.5 16.5 18.9
100 14 13 14.25 18.9
200 14.5 13 14.5 18.9
300 14.5 12.5 14.5 18.9
400 14.5 12.5 14.25 18.9
500 14 12.5 14 18.9
600 14 12.5 14.25 18.9
700 14.5 12 14.5 19
800 14.5 12 14.5 19
900 14.5 12 14.5 19
1000 14.5 12 14.25 19.1
1100 14 11.5 14 19.1
1200 14 11.5 14 19.2
1300 14 11.5 14.25 19.3
1400 14.5 11.5 14 19.3
1500 13.5 11.5 13.75 19.3
1600 14 11.5 13.75 19.3
1700 13.5 11 13.5 19.3
1800 13.5 11.5 13.5 19.4
1900 13.5 11.5 13.75 19.4
2000 14 11.5 14.25 19.5
2100 14.5 12 14.75 19.5
2200 15 12 14.5 19.6
2300 14 11.5 14.75 19.8
2400 15.5 11 15 19.9
2500 14.5 12 15 20
2600 15.5 11 15.5 20.2
2700 15.5 12.5 16 20.4
2800 16.5 12.5 16.5 20.5
2900 16.5 13 16.75 20.7
3000 17 13 17.25 20.8
3100 17.5 13 17.5 21
3200 17.5 13 17.25 21.1
3300 17 13.5 17 21.3
3400 17 13.5 17 21.5
3500 17 14 17.25 21.7
3600 17.5 15 17.75 21.9
3700 18 15 19.75 22.1
3800 21.5 16 20 22.4
3900 18.5 16.5 18.75 22.7
4000 19 17 19.25 23
4100 19.5 17.5 19.5 23.4
4200 19.5 18 20 23.9
4300 20.5 19 20.5 24.3
4400 20.5 19.5 21.75 25
4500 23 20.5 21.75 26.4
外気温28℃