朝霧の正体に迫る
1.研究の動機 以前に行なった古川盆地における視程の研究で疑問となっていたことに,大気中に漂う霧粒の性質があった。霧粒の数が増すことによって視程が悪くなることは解明できたが,粒径との関係についてはよく分からなかったので,研究を行うことにした。 2.研究の目的 今回の研究では,視程と雰粒の大きさや個数との関係を探るのが目的である。そこで,以下のような点に焦点をあて研究した。 (1)実際の霧を調べる前に,先ず身近にある霧(ドライアイスの霧など)について調べる。 (2)実際に霧をとらえ,その性質について探る。霧の層の中で,霧粒の大きさや個数について時間的・空間的変化があるかを調べる (3)霧粒の大きさや個数によって,視程はどのように変化するのか調べる。秀粒が多くなれば本当に視程が悪くなるのか研究する。また,視程の定量化についても検討する。 3.研究の方法 霧粒を直接とらえ観察する方法としてインバタター法を用いた。インバタター法とは,スライドガラスにシリコンオイル等を塗り,その中に霧粒をたたき込み,薪微鏡を用いて観察する方法である。図1が今回用いたインバタターの設計図で,図2がその全体である。使用方法であるが,@先ずインバタターの本体の中にシリコンオイルを塗ったスライドガラスをセットし,中央に漏斗状の穴をあけたふたをする。Aこれを霧の中に持ち込み,大型注射器で内部の空気を一定の量,素早く抜き取る。すると霧粒は上部の穴から勢いよく吸い込まれ,シリコンオイルの中にたたき込まれる。Bシリコンオイルにとらえた霧粒を崩微鏡で観察,写真撮影して霧粒の粒径や個数を計測する。C得られたデータはすべてコンピュータによって処理,グラフ化して仮説を検証した。 4.研究の内容 全体の仮説 ○朝霧の内部で霧粒に時間的,空間的変化があるのではないか。 ○霧の種類によって霧粒に違いがあるのではないか。 ○霧粒の大きさや個数が変わることが視程に影響するのではないか。 検証方法 インパクターによって直接霧をとらえ,その性質を調べる。 (1)身近な霧をとらえる やかんの湯気,ドライアイスの霧,超音波加湿器の霧について特徴を調べる。仮説の設定@超音波加湿器の霧がその発生原理より考え,粒径が最も大きいのではないか。 検証@ 粒径は,やかんの湯気,ドライアイスの落とも4〜8μm,超音波加湿気の霧が8〜10μmであった。よって仮説は成り立つ。 (2)朝霧の内部での寒粒の時間的,空間的変化 (時間的変化)仮説の設定A 凝結核の周りに水蒸気が次々に凝結。霧粒は成長し一定の大きさを保つ。その後,日の出とともに気温は上昇し,だんだん小きくなり消滅する。また,個数もだんだん多くなり一定量に達し,やがて少なくなる。 検証A 猪臥山での観測結果から粒径については仮説が成り立つ。しかし個数については成り立たない。これは霧粗どうしの合体が起っているのではないか。 (空間的変化)仮説の設定B霧粒が成長すると自重で下方に移動するため,上層ほど粒径は小さく下層ほど粒径が大きい。 検証B 安峰山での観測結果から,仮説は成りたたない。250m程度の層厚では,顕著な違いはでないのではないか。 (3)霧の種類による違い 仮説の設定C盆地に発生する朝霧と川霧とでは,発生原理は同じなので,粒径の差はあまりないと考えられる。 検証C 宮川に発生した川霧の粒径を調べたところ,2〜14μmで朝霧と似ている。よって仮説は成り立つ。 (4)霧粒と視程の関係 仮説の設定D朝霧の粒径が大きくなると視程は悪くなる。また個数が増すと視程は悪くなる。 検証D ドライアイスの霧により実験してみたところ粒径の変化ははっきりしなかったが,霧粒の個数が多いほど視程は悪い。乗鞍青年の家での結果からも粒径と視程はあまり関係ないことがわかった。よって仮説はほぼ成り立つ。 5.研究のまとめ これまでまったく分からなかった霧粒そのものを直接とらえられるようになった。霧粒と視程の関係についてはもうすこしデータが必要であり,継続して研究していきたい。 |