-特にその特徴と発生メカニズムについて-
1.研究の動機 飛騨の盆地は霧で一日が始まるといってもよいくらい霧が多い。この霧は朝のうちだけでやがて青空が広がり晴天となる。また,霧は盆地に限って発生することが多く,盆地に通ずる峠からはすばらしい雲海を眼下にみることができる。我々はこの霧がど んなメカニズムで発生するのかを知りたくて研究をはじめた。 2,研究の内容 刻々と変化する大気現象を効果的に,かつ,合目的に観測,研究ができるように仮説一検証一新仮説という方法をとった。 (1)朝霧の定義と仮説1「放射霧説」:霧についての一般的知識・過去の研究例を文献で調べた。また霧について飛騨の人々はどのような認識を持っているかを本校の生徒及び家族を対象にアンケートで調べた。そして,後に述べるような特徴を持つ霧の姿が明らかになった。このような霧及び朝曇りを一指して朝霧と呼ぶことにした。この朝霧は盆地に夜間の放射冷却によって冷気湖が形成され,大気中の水蒸気が露点に達して発生すると考えた。これが仮説1「放射霧説」である。 (2)仮説1の検証と仮説2「川霧説」:仮説1によれば朝霧発生の条件として次の事が予測される。@好天である⇒放射冷却が起こりやすい。A気温較差が大きい。B湿度が高い⇒露点に達しやすい。E風が弱い⇒冷気湖が形成されやすい。これらの検証のために,高山測候所のS54年から60年の観測データを整理し,霧と朝曇りの発生の様子と平均気温 気温較差,湿度,風向,風力との間の相関関係を調べた.その結果@とEについてはほば予測通りであったが.AとBについては肯定も否定もできなかった.これらの検証を通じて,同じような気象条件なのに霧の発生が秋〜初冬に多く、春〜夏にかけて少ないのかが疑問となった.その説明として水温と気温の温度差に注目した.秋〜初冬は水温>気温であり,春〜夏は水温<気温という関係があるから,秋〜初冬にかけて霧が多く発生すると考えた。これが仮説2「川霧説」である。この仮説2の検証のため宮川の水温の連続観測を川と朝霧の様子に注意して行った.その結果,川霧は水温と気温の差の大きい初冬〜冬に発生しやすいことがわかった。したがって朝霧の一部は川霧によって説明できるけれど他の朝霧については別のメカニズムを考える必要がでてきた。 (3)朝霧の観測と仮説3「南風吹き込み説」 仮説1・2の検証を兼ねて,朝霧について長期間観測を続けた. @朝霧の垂直方向の構造:盆地が一望できる周囲の山へ登って,朝霧の下限と上限の高さ,厚き,気温.風向,風力を調べた。その結果,ほばいつも同じようなデータが得られ図3のように一般化することができた。これによると、朝霧の上は朝霧の中や下よりも南風が強く、気温も高い(すなわち逆転層の下に朝霧が発生している)。この南風は全く予期していなかった事であった。 A朝霧の消滅パターン:山頂から朝霧の消え方を観測していると,なめらかだった表面が次第に凹凸してきてやがて塊状になって消滅していく.消滅は盆地の南東地域から始まることが多い.そして順に北西方向へと消滅していく.これは山頂観測の時ばかりでなく、平地における観測でもほぼ同じ傾向が見られた。このような消滅パターンと南風とは関係がありそうである。 B「南風吹き込み説」:朝霧の観測を続け,データをまとめた結果、朝霧、特に朝曇りはどうも単純な放射冷却のみで発生するものではないと結論された。すなわち.南から暖かく湿った空気が盆地内の冷気層中に吹き込み発生すると考えられる。朝霧の供給源が盆地内の水蒸気でなく,南風によって運ばれてくると考えられる。これが「南風吹き込み説」である。 (5) 仮説3の検証 @早朝観測 朝霧はいつ発生するかわからない。しかし、その発生から消滅の様子や気象状況を連続して観測したいということで早朝観測を考え出した。毎週日曜日の朝3時〜8時(朝霧発生時からその消滅時)まで20分毎に,各部員が自宅で観測をするのである。その結果、朝霧発生時より消滅時の気温が高いこと,南風が多いことなどから仮説3が確かめられた。 A逆転層の観測:古川盆地の煙の状態を目安にして、毎日午前午後の2回、逆転層・朝霧の有無、風向・風力を観測した。そして逆転層発生時の風向は不定であるが,朝霧(特に朝曇り)発生時の風向は南東風が多いことがわかり仮説3の有力な証拠に なった.逆転層の発生条件を調べたところ,気温較差が大きいことが重要であること及び,地温が低い程逆転層や朝霧が発生しやすいことが明らかになった.このことから.朝霧発生のためには.盆地内に放射冷却による冷気湖(逆転層)が形成されることが必要であることを示している。従って仮説1がある部分では正しいといえる. (6)仮説4「断熱膨張説」:仮説3でいう南風が吹き込むことが朝霧発生の大切な要因の一つであることに間違いはないが.なぜ暖かく湿った空気が,分水嶺を趨えて盆地内へ下降しうるのかが疑問となってきた.そこで昨年まで行ってきた内陸盆地の地形を調べなおしてみると,内陸盆地は飛騨山地全体からみれば大きな山頂付近の小さな凹地と考えてよい。そこへ南から暖かく湿った空気が断熱膨張を起こしながら南側斜面を上昇してくるため,気温が下がり盆地内へ入りやすくなるのだろう。また,湿度も高くなっているため霧も発生しやすい。ちょうど高い山の頂上付近は霧におおわれやすいというのと同じことではないか。これが仮説4である.この検証のため飛騨の広い範囲にわたって分布調査等を行った結果,分水嶺の南側の久々野にもかなり朝霧の発生がみられ仮説4が正しいと考えられる。 3.研究のまとめ 以上、飛騨の朝霧について研究した結果、表のようにまとめることができた。 ![]() ![]() ![]() ![]() |
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