飛騨の朝霧の研究U

1.研究の動機

 峠を越えると眼下に拡がる雲海がある。飛騨の盆地は落が多い。この務の様子は,教室の窓から手に取るように眺めることができる。こんなドラマチックな霧に興味を持ち,研究を続けた。

2.研究の目的

 朝霧の発生メカニズムを定量的に明らかにする。次に,朝霧の予知の可能性を追究する。また,朝霧の発生高度や性質などについて,年間を通しての変化や条件を研究する。

3.研究の方法

 昨年までと同様に行った。まず,テーマに対して仮説を立てる。次に,仮設を検証するための観測方法や,データ収集法を決める.観測データ等を用いて仮説の検証を行う。もし,仮説とうまく合わなければ,データ等をよく吟味し,新たな仮説を立てて再び立証する.以上のような手順を繰り返して研究を進めた。

4.研究の内容

(1)「4つの朝霧説」の観測による検証
 昨年の研究で到達した「4つの朝霧説」を,約1年半にわたる観測を通して検証を行った。なお,朝霧の観測にあたって,強い霧と弱い霧は区別しないで,まとめて務とした。したがって,川霧・霧・朝集りの3種に区分して観測を行い,検証をした。
  @ 気温と水温
 横軸に気温,縦軸に水温をとり,毎日の天気を月別に色をかえてプロットした(図1)。その結果,朝霧の種類と気温・水温との関係を定量的に求めることができた。また,季節によって,どんな朝霧が発生しやすいかも明らかになった。これらは、いずれも仮説で考えた通りであった。
  A 地温較差と気温較差
 これらの値が,大きい程朝霧は発生しやすいと考えられる。検討の結果,仮説で考えた通りであった。気温較差は,どの季節も約10℃以上あることが発生条件である。また,地温較差は,季節によって違いがみられる。すなわち夏は約20℃以上,秋は約15℃以上,初冬は約10℃以上で朝霧が発生しやすくなる。夏から冬へとむかうにつれて地温較差は,次第に小さくなる。しかし,各季節においては,地温較差が大きい程,朝霧は発生しやすい。
 B 湿度
 早朝の湿度は,ほとんどの場合80%以上である。しかし,朝霧発生時の湿度は,発生していない時より高い。ほとんどの場合90〜100%である。
  E 高山高気圧の検証
 今までの研究により,朝霧の発生には,南風が大き〈関与していることがわかっている。この南風は,夜間の放射冷却によって飛騨山地の中心部に形成きれる局地高気圧(高山高気圧とよぶ)が原因であると考えた。この高山高気圧を検証するために,古川と国府の2か所で,毎朝,気圧を測定した。しかし,この両地点における気圧差は,仮説のようにならなかった。そこで,南風と朝霧の関係についての仮説を再検討し,次のように新しい仮説を立てた.@霧発生時は,放射冷却が強く,高山高気圧が形成されやすくなる。そのため,地表付近では冷たい南風が吹〈であろう(冷たい南風説)。D朝曇り発生時は,上空へ暖かく湿った南風が吹き込む。その南風は,凹地となっている盆地へ渦をまいて入り込む(渦説と呼ぶ).そして盆地内の冷気層に混じって朝曇りが発生する。そのため地表付近の風向は地形や渦の乱れなどから,ある方向に卓越することはないであろう(暖かい南風説)。この2つの仮説を検証するため,風と朝霧の観測を行った。その結果は,ほば仮説通りであった。
  D まとめ
 以上の研究結果に,天気図と朝霧の関係を調べて,次のようにまとめることができた。
(2)モデル実験による「4つの朝霧説」の検証
 発生条件を単純化して,4種の朝霧を実際に発生させることで仮説の検証を試みた。昨年までの研究で,朝霧の発生には逆転層が必要であることが明らかになっていた。そこで,箱の中の気温分布を逆転状態にした.図2に,C弱い霧・E強い霧 C朝曇り G川霧
のモデル実験の概略を示した。一応最初のねらいどおり朝霧を発生させることができた。
(3)対照研究
 高山と神岡は,同じ飛騨の山間盆地でありながら霧の発生頻度に大きな差がある。すなわち,高山は霧が多く発生するのに,神岡はほとんど発生しない。今までの研究成果をもとに,この両地域の違いの原因を探ぐった。蒸発生頻度の差は,次のような原因で生じると仮定した.高山は,神岡に比較して湿度が高く,気温較差が大きく,風が弱いため霧が多く発生するのであろう。これを検証するために,過去7年間の、データを整理,分析した。その結果,神岡は高山に比較して風が強いことが明らかになった。他の条件は霧の発生の限定要因とはならないこともわかった。神岡は風が強いため,霧発生の大切な条件である逆転層が形成されにくいと考えられる。なお,この風の強さの違いは,地形が原因であろう。すなわち,神岡は細長い「雨どい型」であるのに対し,高山は底の広い「中華なべ型」である。霧の発生を研究する上で,地域の特徴(例えば地形など)も考慮に入れていく必要がある。
(4)霧の予知研究
 霧の研究をさらに進め,前日の気象条件から霧の発生が予知できないかと研究した.まず,過去のデータをコンピュータで処理し.天気と前日の気象の関係を調べた。その結果,気温較差が10℃以上,前日の平均風速が1.5m/s以下,前日の最低湿度が40%以下のときに,霧が発生しやすいということが明らかになった。また,前日から高気圧に覆われる時も発生しやすい。以上のことから,予知は可能である。
(5)朝霧の性質
 日々発生する朝霧を,それぞれ個性を持った現象としてとらえ,その個性(発生高度・厚き・漉さ・発生・消滅時間など)は,年間を通してどう変化するか,また,どんな条件で決まるかを研究,した。この研究は,まだ未完成である。今までの研究とは発想の転換が求められる部分があって興味深い。
(岐阜県児童生徒科学作品展「科学の芽」より)

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