跡津川断層における地電流の研究
1.研究の動機 飛騨地方北部にも、かって大きな地震が起こったことがある。この地震は跡津川断層上で起こっている、といわれ今なお活断層として横ずれ変位を生じている。このようなことから断層上で地電流を観測し、地電流擾乱が地震と相関をもたないものか、という関心をもった。 2.研究の目的 地震活動にともなって地電流に擾乱が起こるという観測結果はいくつか報告されている。われわれも飛騨地方でいくつかの地電流観測を経験してきた。そこで今度活断層線上で地電流観測を計画、次のような点に留意しながら計画を実施することにした。 @ 活断層上での地電流の方向。 A 地電流擾乱がいつ、どこで、どのようなとき起こるか。 B 降雨量が地電流におよぼす影響。 C 地電流複乱と地震活動との相関について。 D 地電流と地磁気との相関性。 地電流現象はいくつかの地球物理現象によってひき起こされるといわれている。われわれはこの地電流を観測し、また関係資料を収集してこれらを総合的に調べ、断層線上での地電流の性格を探求しようとしている。 3.研究の経過 1972年から1年間は、古川地方(学校校庭、その他)で地電流の観測をはじめた。その電極の設置法、電極材料について、記録のとり方、気象と地電流、人工雑音の性質など予備実験的にいろいろと調べてきた。−74年には、北アルプスの活火山、焼岳山ろく(上宝村 一宝水)にて7日間の地電流観測を実施した。このときは、地下500mの温泉用ケーシングを電極としてデータをとったが観測期間が短期間であったので、深い電極と地電流という程度のデータを得るにすぎなかった。最初に校庭に埋設した電極を利用して、1年間を通じての観測、資料解析をしていくうちにいくつかの原因不明の地電流擾乱が現れてきた。そこで京都大学防災研、上宝観測所、名古屋大学、高山地震観測所の地震データ地磁気データなどを借用して、われわれの地電流の原因究明にあたった。その中から数多い微小地震がこの飛騨地方にもあり、図1に示すように来季安・御岳の周辺に集中、また跡津川断層に沿って数多い微小地震が記録されている。とくに跡津川断層は日本ではA級の活断層でもあるということで、この活断層で地電流を観測しようということになった。’76年には、吉城郡河合村天生地区で8月中約1か月間の連続観測、以後資料解析、,77年8月から10月まで同観測地で観測、これと同時期に同じ跡津川断層上の音域郡宮川村林地区に新電極を埋設、天生と林で同時観測を開始した。図2に跡津川断層と観測点の略図を示した。 4.研究の内容 今回の研究は、図2に示すような跡津川断層(600E長さ60km)上の音域郡河合村天生(N36°16′、E137001′)での観測に基づく資料のうち,76年8月中の約1か月間の分について主に紹介したい。埋設電極は長さ1.5mの棒電極(有効長下部1.Omの鋼製丸棒)を断層に直角(S−N)としその長さ60m、断層に平行(E−W)としその長さ57m、(N−S)(E−W)を2成分として、2ペン式 レコーデーに連結記録をさせるようにした。図3は、’77年林での観測記録を示す。地電流擾乱は記録計より直接読取り、地震データは京大上宝観測所の記録、雨量については関西電力下小鳥発電所の記録、地磁気については京大上宝と柿岡地磁気観測所のものを用いることにした。図4は−76年天生地区での観測記録である。記録上に現れている地電流の変化について、N−S方向のものがE−W方向のものより全体に変化量が大きい。その差は平均して2倍程度である。また2成分とも按乱の発生時間は大体一致している。擾乱のうち雷雲によるものは頼時間発生のため記貪剥こは出ていない。@の地電流の方向性については、図5に示すように主方向は、S−Nの方向で断層に対して直角の方向のものが優位である。また、N−S、E−W2成分の地電位ベクトルをとってみると観測期間を通して、約70mVの変化を示している。この大きな変化量の原因は、Bによる雨量と地電流との関係をよく表している。変化量の原因としては他にも考えられるものがあるが、ここでは雨との相関について、図6により調べてみる。図6は降雨量による地電流変化を縦軸にとって降雨時に重ねてみると、断層が降雨量による影響を受けていると思われる。特に、N−Sのものが、E−Wよりも2倍以上の変化を示している。このことは断層による破砕帯がこの近くにあって、降水の影響を地殻かよくうけているものと考えられる。このことは地質学的にもう少し詳しく調べてみる必要があると思う。興味あることでもある。’77年天生観測のデータは紙面の都合でここにはあげられないが、,76年と降雨量に関しては非常によく以た様相を示しているので、擾乱の時間とその復帰との関係を解析してみる必要がある。Cについては、図4・図5に↑印で地震の発生が記入されている。図4ではこのときの地震の例数が少なくて接乱との相関は認めかたい。またこの地震もM1程度のもので、擾乱の変化量が大きいのでその影にかくれてしまったことも考えられる。このことについては、'77年のデータを解析してみればもう少しはっきりしたものが出そうである。図5について地電位変化が、E−W方向に変化している中央付近に地震が5匝1集中している。このことは地電流擾乱と地震との相関に何か関係があl)そうなので、この点に関してはデ−タをもう少し多く出して同じような解析をやってみたい。研究の余地を残しておこう。Dについて、天生観測データ上に、柿岡、上宝の地磁気をプロットしてみたが地電流接乱と地磁気擾乱との相関はほとんど見られなかった。 5.研究のまとめ いままでの地電流観測の経験を生かして、活断層上での観測を手がけたわけであるか、断層が雨水にたいしてかなり大きな影響をもつものであることがわかった。活断層と地震活動については、データ不足もあってまとまったものか得られなかったが,77年の観測結果により好材料が記録されていると思う。断層をはきんだ地電差は、平行なものよりかなり大きく出たが擾乱は水の影響を強くうけることがわかった。地電流観測は手軽で安上かりなので取りつきやすいが、原因不明の接軋も多いのでこれを除くためには、観測資料をより多くとることが必要である。 |