飛騨地方における気象変動の研究(その2)
1.研究の動機・目的 昨年から気候変動の研究を行っているが、その一環として今年度特に年輪による気候変動の研究を行った。気候変動の調べ方は種々あるが(料学の芽4参照)そのうち年輪は研究材料が比較的入手しやすい。たまたま我々地学部が調査研究していた天生湿原付近のブナ原生林が伐採きれ、古川営林署の御厚意でブナの根元の部分を10個入手することができた。そのため本研究が実施できた.年輪の1本が1年を示し、その幅を気候の変化と応じて変化させる樹木があることは、20世紀の初めにアメリカのデグラスによって最初に指摘された。それ以来多くの研究がなされ成果を上げている。北米やヨーロッパでは気候変動と年輪幅変化との相関が良いが、日本では気候的要因やそれ以外の地形などの要因が複雑であるため十分な成果があがっていない。したがって、年輪幅から過去の気候変動を推定することを主目的においているが年輪幅の変化そのものが有意なものなのかという点から検討を行った。もし有意ならば、年輪幅の変化はどんな条件の変化を反映しているのかを細かく検討していくことを目的とした。 2.研究の方法 気候変動の推定にあたり一つの材料、方法からすべてを決めるのは非常に危険なことである。種々の方法を有機的に組み合せて総合的に判斬する必要がある。その観点に立って現在研究を進めているが、ここでは年輪研究についてのみ述べることにする。年輪の研究方法には、特に狭い年輪に注目する方法・メモリー法等があるが、我々は年輪の幅を個々に測定し調べる年輪幅変動法という方法を用いた。研究試料であるブナを、幹の伸びている方向と垂直に切断し、サンデーでその表面を良く研摩する。次に中心から最も平均的な方向へ直線を引く。その線上で年輪の幅をルーペ等で拡大して見ながらノギスを用いて0.1mmの単位まで測定する。その測定値を各年輪が形成された年に対比きせて図2のようにグラフで表す。年輪は図1に示したように、春から夏にかけて形成される自っぼい部分(春材)と秋から冬にかけて形成される黒っぼい部分(秋材)の2つに区分されることによって生じている。従って白・黒がペアとなって一年間の幅ということになる。しかし年代は秋材の部分の中程で変わるため、測定値がそのままある年に形成された年輪幅とは言えない。しかし年輪幅の大部分は春〜夏に分けて形成されているので春材部分の年代で考えても大きく異なることはない。 3.研究の内容 測定試料に用いたブナは天生湿原付近の東側斜面に生育していたもので樹齢は約200年、根元の直径は約60〜80mである。標高1400mあまりで気候は夏は冷涼多雨、冬は県内でも有数の豪雪の所である。測定したブナは、昨年研究したスギ・ヒノキと比較すると大変年輪幅が狭くかつ不鮮明である。これは天然林と人工林あるいは広葉樹と針葉樹といった点に原因があると考えられる。一般に、年輪は人工林・針葉樹の方が測定しやすい。測定値を図1のように10個体分についてグラフ化した。この測定に先だって、同一個体ならば方向が異なっても年輪幅の変化の様子は変らないことは昨年、スギ・ヒノキについてわかっていたが念のためブナについてもその確認を行った。個々のグラフを比較しても一般的な傾向は読み取りにくかった。個体によって変化が大きいものもあれば小きいものもある。これらは生育場所の相違もしくは個体差などが原因と思われる。個々の条件とその影響については今後の課題としたい。次に大きな変化の様子を見るために5年及び7年ごとの平均値を取ったグラフをそれぞれの個体について作成した。これを見ると、全体として0.2〜4mmまでの変化はあるが年代を追って見ていくと約1〜2mmの帽で大きく変化している様子が明瞭に読み取れた。その1〜2mmの帯状部分を年代ごとに平均化してグラフ化したものが図3である。年輪幅の極大値は1960年、1935年、1885年(最大値でもある)、1800年頃に、また極小値は1950年、1915年、1830年(最小値)頓にそれぞれ認められる。全体としてみると年輪幅は上記のような変化を繰返しながら1860〜1960年の間の広い時代と1960年以降及び1860年以前の狭い時代の3つに大きく区分される。この事実はヨーロッパや日本で研究きれ明らかにされている後氷期の気候変動の傾向とほヾ一致している。また留3に岐阜県災異誌から飛騨地方の主な気象災害をピックアップしてグラフ化してみた。その結果、年輪幅の狭い部分は大雪、凍霜害の多い時期にほぼー致しているが、干害はほとんど相関関係が無いことが読み取れる。この事は先に述べたこのブナの成育場所の条件と関係していると思われる。すなわち水の影響はあまり受けない条件にあり、低温・大雪の影響を強く受けていることがわかる。 4.研究のまとめ この研究により天生山系のブナの年輪幅は、個体による差はあるものの大局的に見れば気俣の影響・特に気温と降雪量の影響を示していることが結論づけられる。 |