-飛騨ロームの研究-
1.研究の動機と目的 飛騨内陸盆地の研究は.昭和55年から継続して取り組んでおり,盆地の特徴や形成過程がしだいに明らかとなってきた。その中で,段丘の最上位に堆積している飛騨ロームの持つ問題点が,クローズアップされてきた。一つは,今までの研究で火山灰層と考えられていた飛騨ロームの成因を検討することである。もう一つは,その年代を探ることである。以上二つの問題点を明らかにすることを目的として今回の研究を行った。 2.研究の内容 (1)方法:試料は従来,任意の間隔をおいて採取していたのを,今回は,5cmごとの一定間隔に区切って連続して行った。この方法によると,肉眼的には識別不可能な火山灰層など短時間のできごとを見つけだすことができる。すなわち,連続的に時代の変遷が分かる。次に,地層区分のための分析手順を示す。@試料乾燥や→A秤量→BNaOH(10%)処理→CHCl(10%)処理→D粘土分(250メッシュ以下)の洗い流し→E残砂の乾燥,秤量。ここで粘土%を計算→F検鏡,鉱物組織を5段階で表示し,鉱物分帯を行う。→Gふるい分け,粒度分析→H115メッシュの粒子について,鉄鉱物分離及び重液分離を行いそれぞれの重量%を計算する。以上の手順中 B,C,Dの段階で,超音波洗浄器を用いて,試料の処理を行うことにより,従来より大幅な時間の短縮と,鉱物粒子等の機械的な破壊を防止することが可能となった。さらに,飛騨ロームの成因を探るために化学的側面から研究を進めた。この方法を考えたのは,飛騨ロームは今までいわれていたように全層が火山噴出物ではなく,火山活動の休止期を示す古土壌も存在するのではないかという疑問を持ったためである。従ってより古土壌的性格を強く帯びていれば,腐食量や植物珪酸体が他の部分より多く含まれているであろう。また,次々と火山灰に覆われることがないから酸化的環境にあるため,Fe3+も多くなるであろう。火山灰層に多く含まれているAl3+は.他より少なくなると考えられる。以上のような前提の上に腐植量・植物珪酸体・Fe3+量・Al3十量の定量を行った。なお,腐植量の確認のため灼熱損量の測定もあわせて行った。 (2)結果と考察:飛騨ローム全層が見られる国府町三川及び高山市夏虫の2か所で,連続試料をそれぞれ69個・60個採取して分析した。国府町三川のデータを図1に示した。 @ 飛騨ロームの層区分:野外での観察や鉱物分析の結果.下位より広殿層(シソ輝石・角セン石帯),高山層(黒ウンモ・石英帯〉,町方層(石英・磁鉄鉱帯)の三層に加え,新たに広域示標テフラとして有名な大富倉書軽石層(シソ輝石・角セン石帯でDKPと略称)及び姶良火山灰層(火山ガラス帯でATと略称)を確認することができた。特にDKPの存在は重鉱物%グラフでも明瞭に示されている。この広域テフラの確認によって,今回の目的であった飛騨ロームの編年が大きく前進した。(撰2) A 町方層の正体:今まで火山灰層と考えられていた町方層は,粒度分析の結果,古土壌であると判明した一方,広殿・高山両層は火山噴出物が降下堆積したものであることもはっきりした。町方層は,図1からもわかるように,腐植,Fe3+が広殿・高山両層よりも多いのである。なお,Al3+は三層ともほぼ同じであり.町方層がやや少ないという程度であるが,このことは,町方層という古土壌の母材は,火山噴出物である高山層から供給されたためと考えられる。町方層は,高山層から風化しやすい黒ウンモを除いた鉱物組成を示していることもこの考えを支持している。町方層は他の地層より腐植が多いため,灼熱損量も大きい値を示すと考えて実験を行ったが,結果は全く逆になってしまい,その数値も一桁大きくなった。古土壌より火山噴出物の方:より多く含まれる揮発性物質は何か。今後の重要な課題となろう。 B 飛騨ロームの編年:今回,確認したDKPとATの間の古土壌は約20cmであるため,概略的に計算すると,1万年に10cmの割合で形成されたことになる。この速度を,厚き110cmの町方層に通用すると,約11万年かかって形成されたことになる。従って今から15万年前に町方層の形成が始ったことになる。一方、 腐植量は,町方層上部で少なく下部で多くなっている。このことは,上部は寒冷,下部は温暖な気候であったと推定される。これを第四紀の古気候に対比すると,図2のように,町方層上部が古ウルム亜氷期(7万〜4万年前),下部がリス・ウルム間氷期(15万〜7万年前)に対比され,町方層の形成開始年代が,先の堆積速度から求めた結果と一致する。この結果と露頭における地層の重なり方などから判断すると,高山層は約15万年前,広殿層は約16万年前ごろに降下堆積したと推定できる。 C 広殿・高山層の火成活動:鉱物組成と重鉱物分析結果から,広殿層は安山岩質マグマの,高山層は石英安山岩一流紋岩貿マグマの活動であったことが分かった。噴出源追求の好材料となるであろう。 |
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