古川盆地を伝わる音の研究平成11年度地学部

第 1 章、はじめに

(1) 研究の動機
 部の先輩の話として、朝霧の観測のため24時間徹夜観測を行っていたときなど、古川盆地内から聞こえるさまざま騒音の聞こえ方に違いがあるということであった。なぜ聞こえる音に違いが生じるのか解明してみた。

(2) 研究の目的
 音の聞こえ方の遠いを調べるといっても、音の何を測定すればよいのかはっきりしないので、研究の目的を以下の点に絞って研究を行う。(9盆地を伝わる音の日変化A朝霧の中での音の伝わり方

(3)研究の方法
 盆地内を伝わる音の大きさを調べるため、以下の騒音計一式を用意した。騒音計:リオン製 普通騒音計 NA−9記録計:リオン製 LEVEL RECORDER L R−04この騒音計で得られた騒音のデータをもとに、今回の研究を進める。

写真1 騒音記録計一式

第2章、盆地を伝わる音の日変化

(1)目的
 吉城高校は古川盆地を見下ろす小高い段丘に位置.している.安峰山のふところに抱かれ、周辺に民家や工場、大きな道路はなく、授業中聞こえるのは鳥のさえずりや虫の声、風の音などで、毎日お昼12時に鳴る役場のサイレンが唯一の騒音といって良いほど、勉強するには最高の環境である。こんな静かな環境ではあるが、教室の窓から頭を出して注意深く耳を澄ましてみると、遠くから常に、低い音で車の音が聞こえてくるのが分かる。この音の正体は、市街地をはさんで盆地のちょうど反対側に位置する国道41号線を通過する車の騒音である。国道41号線の車の騒音は、夜間でも常に盆地内に響いている。音響学では、このような意識してはじめて分かるような環境の中で常に響いている背景となる音のことを”暗騒音”、英語では、Background Noise(以下BGN)と言う。このBGNを頼りにして、盆地内の音の伝わり方について調べて見た。




(2)結果
  盆地内を伝わるBGNの大きさには、明らかに日変化が見られる。(グラフ1)明け方3時頃が最も小さく、約2 5d B程度、10時頃と15時頃が最も大きく、40数d B程度である。
 写真3 騒音測定風景


第 3 章、 徹夜観測

(1)目的
 日中、吉城高校で聞こえるBGNの主な音源は、41号線の車の騒音である。では、夜間に関してはどうであろうか。盆地内を伝わる夜間の音源にはどのようなものがあるのか、徹夜観測を行う。

(2)結果
 観測の結果、吉城高校で聞こえる様々な音の内、古川盆地での主なBGNは、1目を通して国道41号線の騒音であることが分かった。これをもとに、研究を進める。
第 4 章、 盆地内を伝わる音の性質
(1−1)目的
 国道41号線の交通量と、盆地内の気象条件との関わりについて調べてみる。はじめに、交通量とBGNとの関係を調べる。
(1−2)結果
 交通量とBGNとの間には、正の相関関係があることが分かった。(グラフ2)
(2−1)目的
 BGNは、気象条件とどのような関係があるのだろうか。気温の鉛直分布との関係を調べてみる。気温分布は、安峰山山湧の気温と古川小学校での気温の差で求める。
(2−2)結果
 はっきりとした相関は見られないが、気温差が、−2〜一30℃(気温減率約−0.50℃/100m)の時、BGNの値が大きいことが分かる。(グラフ3)つまり、盆地内の大気の鉛直分布で、気温減率が約−0.50℃/100mになると、国道41号線方面からの音の伝わり方が、最も伝わりやすい位置関係になるものと考えられる。
グラフ2 車の台数と騒音との相関

グラフ3 気温差と騒音の相関

第 5 章、 霧の中での音速
第1項 室内実験
(1−1)目的
 霧の中での音速はどうであろうか。ドライアイスを用いて、室内実験で確かめてみた。
(1−2)結果
 データはすべて管内温度29.20Cのものである。音速を測定してみると、霧の中では、V=3800×0.091=345・.8(m/s)一方、霧の無い状態では、V=3800×0.0948=360.24(m/s)となり、ドライアイスで発生させた霧の中では、およそ4%音速が減少することが分かった。なお、この結果で音速がやや速く計測されているのは、低周波発信器の周波数の読みとりがアナログ形式なので、若干の誤差を生じるためである。

写真4 室内実験風景

第2項、実際の霧の中での音速測定
(2−1)目的
 実際の霧の中で音速を、超音波距離計を用いて測定してみる。(写真5)
(2−2)結果
 視程と測定された距離との間に、明らかに負の相関が見られる。つまり、霧が濃くなるはど、音の伝わる時間が遅くなることが分かる。(グラフ4)霧の中での減速率を求めてみると、最も速く伝わったのが0.0945秒、最も遅かったのが0.0951秒なので、およそ0.6%遅くなっていることが分かる。この速いは気温差がおよそ3〜40℃の場合の音速の違いに相当する。朝霧の発生は、盆地内を伝わる音に大きく影響し、霧の濃度と音速との間に負の相関があることが分かった

第 6 章、朝霧の中での音の伝わり方

(1)目的
 前章で、霧の中では音速が小さくなることが測定された。このことをもとに、朝霧の発生している時、とそうでない時での盆地内の音の伝わり方について検証してみる。

(2)結果
 気温差が小さい時、(−20℃付近〜−10℃)のBGNの値が小さいことが分かった。はっきりとした結論は出せないが、霧の影響により霧の中に入った音が、上方に屈折して逃げていってしまい、BGNの値が小さくなったものと考えられる。


写真5 超音波距離計を用いての計測風景

第 7 章、 蝉の鳴き出す時間

(1)目的
 今回の研究において、BGNの記録を取っていたところ、7用に入った頃から朝4時〜5時の間で急に値が大きくなり、10分〜20分ほど続き、急にまた小さくなる奇妙な変化を捉えた。この原因は、徹夜観測の結果、ニイニイゼミが一斉に鳴き出すことによることが判明した。
この鳴き出しの時間を詳しくみると、毎日少しずつずれているようなので不思議に思い調べてみることにする。

(2)結果
 気温の変化と、鳴き出しの時刻には相関関係がみられない。天気との関係では、雨天の翌日に蝉の鳴き出す時間.が前日よりも約10分〜20分早くなる傾向が見られる。また、日の出の時刻との関係を調べてみると、はっきりとした関係がみられ、蝉の鳴き出す時刻は、日の出前約10分であることが分かった。(グラフ5)
グラフ5 蝉の鳴き出す時刻と天気、日の出時刻

第 8 章、 ま と め
まとめ
@古川盆地で聞こえるBGNの音源は、1日を通してはとんどが国道41号線を通過する車によるものである。
A安峰山山頂と盆地底部の古川小学校との気温差が−30℃弱の時(気温減率約−0.50℃/100m)、BGNの値のが比較的大きくなる傾向がある。
B霧の中で音速は小さくなり、霧が濃いほど遅くる割合が大きい。また、霧の発生時には盆地内のBGNの値が小さくなる。
C蝉の鳴き出しは、ほば日の出前10分である。今後の課題@1日を通じて基準となる音源を探し、国道41号線の騒音を頼りに研究を進めてきた。しかし、国道からの騒音は線上に位置し、点ではないことから、基準となる音源としてあまりふさわしくなかったと思われる。夜間でも、町民の方々に迷惑のかからないような、基準となる音源はないものだろうか。A音の伝わり方の重要な要素として風がある。今後、風の影響に関する研究が、最も重要である。Bせっかく霧の中での音速が測れたにもかかわらず、今年は霧の発生が少なく、霧の影響について十分考察できなかった。 これからの季節、発生の時期を迎えるので、是非研究してみたい。B最後に、蝉の鳴き出す時刻について、地学部ではあるが、環境問題の1つとして今後さらに研究してみたいテーマである。
(岐阜県児童生徒科学作品展「科学の芽」より)

光学式文字読取装置を用いて作成しました。
誤字を見つけたらメールください。