飛騨盆地における光学現象-内陸盆地での蜃気楼

1 研究の動機

 これまでの地学部の研究において,古川盆地では,大気の逆転層が形成され易いことが分かっている。盆地の上層と下層で気温差があると,通過する光は屈折して蜃気楼現象となる。実際このような現象が見られないか研究してみようと考えた。

2 研究の目的

 蜃気楼現象とはどのような現象なのか調べて,その知識をもとに,古川盆地内でもそのような現象が見られないか研究してみる。

3 研究の方法

(1)文献等で,蜃気楼現象にはどのようなものがあるか調べる。
(2)盆地内にいくつかの観測点を設け,目標物を定め,それの見え方が盆地内の気温分布の違いによってどのように変化するのかを観察する。

4 研究の内容

(1)蜃気楼現象について
 まず蜃気楼現象とはどのような現象であるのか調べてみたところ,蜃気楼現象には,いくつかの種類があることが分かった。
@ 蜃気楼
 蜃気楼には,上暖下冷型と上冷下暖型の2種類がある。上暖下冷型とは,上に暖かい空気の層があり,その下に冷たい空気の層  ができるときに見られるものである。このとき光は,上に凸の弓状に曲がるため,遠くの物体の像は実際よりも浮き上がって見られ る 。富山湾で春先に見られる蜃気楼はこのタイプのものである。上冷下暖型のものは,上暖下冷型とは逆の気温分布の時に見ら れる 。このとき景色は,実際よりも下方に見えることになる。
A 逃げ水
 逃げ水は,夏の炎天下のアスファルト路面の上でよく見られる現象である。前方やや離れた路上にあたかも水たまりがあるように見えるが,実際に近づいてみるとそこにはなく,水たまりは少し先に移動して見える現象である。これは,前述の蜃気楼の上冷下暖型と同じ現象である。強く熱せられたアスファルトによって路面上に薄い暖気層が形成される。この場合,光は下に凸の弓なりに進行し,路上に遠くの景色や空が映り,あたかもそれが水たまりで反射したように見える現象である。
B 不知火
 九州,不知火湾に,8月1日頃現れる現象である。夜中,遠くの海上に漁り火が見えたかと思うと,みるみるうちに数を増し,横方向に広がっていく現象で,古来より神がかり的な説があった現象である。様々な説があったが,最近の研究では,横方向の蜃気楼現象であることが分かった。
(2)蜃気楼の観測と検証について
 古川盆地でも蜃気楼現象が実際に見られるかどうか研究してみる。これまでの研究で,古川盆地ではしばしば冷気湖(大気の逆転現象)が発生することが分かっている。これは,蜃気楼ができる条件としては上暖下冷型に相当するので,盆地内を通過する光は上に凸状に曲がり,遠くの景色が実際よりも浮き上がって見えることになる。そこで,盆地内にいくつかの観測点を設置し,盆地内の気温を測定しながら,比較的近くの建物などを基準として,なるべく遠くの物体を目標物と定め,天体望遠鏡で写真撮影をして,その見え方の変化を追った。観測点として,安峰山 国府町山本,本校の3カ所を設定した。
@ 安峰山での観測
 安峰山は,これまで古川盆地の気象の研究で何度も観測点として利用してきた場所である。今回ここを選んだ理由は,山頂がちょうど冷気湖をぬけた高さにあり,ここから見下ろす景色は冷気湖の中なので,条件がそろえば像が浮かんで見えると予想し観測を始めた。目標物として,高山市本町付近の建物を選んだ。直線距離でおよそ12.5kmあり,問に三枝山があるためそれを基準とし,山頂に天体望遠鏡を設置し,像の変化を20分ごとに写真撮影しデータとした(写真1)。気温は,高山市片野,高山市下切,国府町宇津江,古川町是重,安峰山山頂で測定した。測定を開始したのが,夕方19時であった。このときの気温差は3.1度であった。ところが23時頃盆地特有の高い霧が発生し,観測不能となってしまった。霧が晴れたのは,翌日の10時頃で,冷気湖が形成されていた時のデータが取れなかった。そこで今度は高い霧の影響のない盆地底部に観測点を設けてはどうかと考え,再観測を行った。(卦 山本での観測)観測点を国府町山本に設置した。目標物として,古川町森林公園内のゴミ焼却炉グリーンセンターの建物を選んだ。距離は8kmほどで,観測点との高度差はほとんどない。しかし,森林公園は盆地の中では下層部に位置し,これまでの研究で,夜間に形成された冷気湖が最後まで残ることが分かっている。このような条件の下で観測を行った。(写真2)その結果,日中日差しが強まると,像は陽炎によってゆらぎを生じることは確認されたが,像の伸びや縮みは確認できなかった。

5 研究のまとめ

 盆地内でも蜃気楼現象が見られないかと研究してみたが,それらしきものは捉えられなかった。結論として,盆地内で生じる気温差程度では,観測できるはどの大きさの光の屈折は,生じないと考えられる。しかし,今回は初めての観測だったこともあり,それぞれの観測が十分とはいえなかった点もある。今後再検討し,再度研究していさたい。



(岐阜県児童生徒科学作品展「科学の芽」より)

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