5,深部地温分布 A
5−2 トンネル内壁面温度分布 |
(1)目的 |
地下の温度について前項では、温泉ボーリングデータを用いて検証した。温泉ボーリングデータの場合、掘削とともに地下水、温泉水の流入がある。ボーリング孔の大きさから考えてこの影響は少ないと考えられるが、考慮しなければならない。 この項では、トンネルで地温の観測を試みる。 トンネルは、深さという点では数100mに達する場合もある。また、直接中に入って観測することができるという利点がある。トンネルの壁面の温度を測定し、地温の分布についてさらに検証してみる。 |
(2)仮説の設定 |
前項の研究結果から、地温は地下数10mで12〜18℃で、100m以深では、3℃/100mの割合で上昇する。いろいろなトンネルがあるので一概には言えないが、トンネルの地上からの深さは場所によっては数100mになるものもある。 普通、トンネル中央部が最も深いことになる。このようなことから、トンネル内の壁面温度は中央付近の温度がもっとも高くなっているものと考えられる。 |
(3)方法 |
調査方法は、トンネル内を自動車で移動しながら、放射温度計を用いて壁面温度を記録していく。予備調査で、放射温度計を壁面に近づけた場合と、2m程度離れた場合でも、測定値に大きな違いは無かった。むしろ、壁面からやや離れて測定した方が、壁面の広い範囲の平均的な値がでるため都合がよい。トンネル内の気温も自動車で移動しながらデジタル温度計で測定した。 |
(4)検証 |
古川町内の2つのトンネルで観測を行った。 1ヶ所は、古川町野口地内の野口トンネル(全長787.5m)で、もう1ヶ所は、今年7月に開通したばかりの猪臥山(いぶしやま)トンネル(全長4475m)である。 猪臥山トンネルは、林道トンネルとしては日本で最も長いトンネルである。 それぞれのトンネルについて検証を行う。 ○野口トンネルの場合 野口トンネルの断面図を図5−2−1に、測定結果を表5−2−1に、それグラフ化したものを図5−2−2に示す。表及びグラフの距離の値は、トンネル北側の宮川村方面の入り口を0mとしてある。 このグラフより、トンネルの気温、壁面温度とも入り口付近は高く、トンネル中央部ほど低いことがわかる。気温の最も低いところは500m付近の26.3℃であり、壁面温度の最も低い所は同じ500m付近の21.9℃であった。気温に比べ、壁面温度はトンネル内でほぼ一定の値を示しているようにみられる。 気温、壁面温度とも入り口付近で高くなっているのは、外気温の影響と考えられる。 野口トンネルの地上から最も深い部分は、トンネルほぼ中央付近で、その深さはおよそ200mである。前項での温泉ボーリングデータから得られた結果では、200mの地温は20℃程度であった。 よって、トンネル内壁面温度は地温を反映していると考えられる。 次に猪臥山トンネルで検証を行う。 ○猪臥山トンネルの場合 猪臥山トンネルの縦断面を図5−2−3に、測定結果を表5−2−2に、それをグラフ化したものを図5−2−4に示す。猪臥山トンネルは古川町と清見村とを結ぶトンネルで、表及びグラフの距離の値は、古川町側の入り口を0mとしてある。実際の測定は、反対側の清見村側から行った。 測定結果を見ると、清見側入り口付近での坑内温度(気温)、壁面温度とも高く、それぞれ26.4℃、21.75℃であるが、古川側に向かって徐々に小さくなっていき、2500m付近で壁面温度が15℃を下回ってからは、古川側入り口まで、ほぼ13.5〜14.5℃の間で安定した値を示した。 このような結果となった理由は、トンネル内の壁面温度がほぼ14℃程度、坑内気温は18℃程度だった所に、清見村の方から温かい外気が流入し続けたために、このような分布になったと考えると説明が付く。 猪臥山トンネルの最高深度は、トンネルのほぼ中央部に位置し、約400mである。前項での温泉ボーリングデータから得られた結果では、400mの地温は25℃程度であった。この結果と比較すると、猪臥山トンネルの壁面温度は、予想される地温より非常に小さい値であることがわかる。猪臥山トンネルは、しぶきの湯に近く、周囲の地質も同じ濃飛流紋岩を主体としている。 この原因として、4つの要因が考えられる。 1つ目は、トンネルは山をくりぬいているため、地形の影響で放熱が大きく、地温が低いのではないかと考えられること。 2つ目は、温泉ボーリングデータそのものが高い値であったと考えられること。 3つ目は、地下水の影響ではないかということ。 4つ目は、トンネルを掘削したことにより、冷却し地温が低下したと考えられること、である。 1つ目については、確かに多少なりとも影響があると考えられる。しかし、これまでの研究で、地表の影響は、せいぜい数m程度であり、あまり影響はないものと考えられる。 2つ目については、温泉ボーリングデータから得られた地温勾配から推定される地表面付近の地温が、第3章、第4章で観測された地温結果と調和的であったことから、あまり疑うことはできない。 3つ目については、1m深地温分布の調査の時、地下水の観測された調査孔の地温が他よりも低い値であったことなどと同じように、地下水の存在によって壁面温度が低下したのではということである。しかし、地下水脈があり、それによって部分的に冷却されることはあっても、トンネル全体にわたってそのようなことが起こっていると考えるには無理がある。以上のことから、もっとも可能性のあるものとしては、4つ目のトンネル開通による冷却が有力と考えられる。しかし、このことを確かめるには、掘削途中のトンネルの温度データがあればよいのだが、今となっては調査することができない。 さて仮説では、トンネルの壁面温度は、地温勾配から推定されると考えた。 しかし、壁面温度と推定される地温とのが差が大きく、仮説を検証するには至らなかった。 |
(5)まとめ |
研究の結果、トンネル内の壁面温度は、単純にその深さでの地温を表していない可能性が大きいことがわかった。ところで、第4章の30m深地温分布で観測に用いたボーリング孔は、トンネル予定場所の調査ボーリングであった。将来トンネルが完成した時に測定に行けば、この答えがでるかもしれない。(何年後になるかわからないが。) いずれにしろ、今後の課題としたい。 |
図5−2−4